五月の風が爽やかに吹く頃、茶室では大きな節目を迎えます。半年間ともに過ごした炉に蓋をして、風炉へと切り替える「風炉開き」の季節です。
冬の間、畳を切って据えられていた炉は、客との距離を縮め、ぬくもりを分かち合う設えでした。それが五月、風炉として点前座に据え直される時、茶の湯は新しい季節の顔を見せはじめます。
風炉開きとは:炉から風炉へ
風炉開きとは、毎年五月の初め、炉を閉じて風炉に切り替える節目のこと。茶の湯の世界では、十一月の炉開きと並んで、一年を二分する大切な区切りとされています。
炉は冬の道具、風炉は夏の道具。釜を据える場所が点前座の畳の上に移ることで、客から見える景色がぐっと変わります。炉の頃は釜が客の近くに沈んでいたのに対し、風炉では少し奥まった位置で湯気を立ちのぼらせる。その距離感の違いが、季節の移ろいを静かに告げてくれるのではないでしょうか。
初風炉の心構え:新しい季節の始まり
その年最初の風炉を「初風炉」と呼びます。新しい季節を迎える緊張と楽しみが入り混じる、亭主にとって特別なひとときです。
初風炉では、道具立ても改まったものを選ぶのが習わしです。釜は風炉用に掛け替え、水指は涼しげなものに。床には初夏らしい花を一輪、軸も季節に寄り添うものを選びます。冬の名残を引きずらず、かといって真夏の派手さもまだ早い。五月という季節そのもののように、清々しく落ち着いた取り合わせが好まれます。
茶を点てる側にとっても、客にとっても、「ああ、今年もこの季節が来た」とホッとする瞬間。半年ぶりの風炉に向かうと、自然と背筋が伸びる心持ちになります。
五月にふさわしい道具立て
初風炉の頃に映える道具には、いくつかの定番があります。釜は真形(しんなり)や鬼面など、改まった形のものが選ばれることが多いようです。水指は染付や祥瑞写しなど、白さに涼を感じさせるものが好まれます。
茶碗もまた、季節を映す大切な道具です。初夏には青磁や、薄手で軽やかな印象のものがしっくりきます。棗は若葉や青楓を蒔絵にしたもの、無地でも溜塗や青漆など、清涼感のある色目が五月らしさを引き立てます。
徳増では、風炉開きの季節に合わせて、初夏の取り合わせにふさわしい道具を多数取り揃えております。新しい季節のお稽古に、何か一つ加えてみるのも、ご縁の始まりかもしれません。
次に風炉の前に座る時、釜から立ちのぼる湯気の様子を、ゆっくり眺めてみてください。半年ぶりの景色には、きっと新しい発見があるはずです。